COLUMN
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フィレオ・フィッシュの小骨
『Vaseシーズンルックの場合(前編)』
中目黒にあるセレクトショップ・Vaseのシーズンルックを制作することになった。当初はオーナーの平井さんに「鶴田君、モデルで出演してよ」と誘われていたのだが、僕はモデル稼業ではない。「せっかくなら作る方をやらせてくださいよ」とお願いしたところ、スタイリングとディレクションを任せてくれた。平井さんは同郷・熊本の先輩。10年以上前に共通の知人を介して知り合った。優しいのか義理堅いのか面倒見が良いのか超テキトーなのか分からないけれど、バラックのようなセレクトショップを中目黒で16年も続けているなんて、やっぱりちょっと変わった人だ。とりあえず僕にはいつも良くしてくれる。
僕がモデルに誘われたくらいなので、キャストは全員「非・職業モデル」が良いと思った。その旨を平井さんに伝えたところ、朗らかな顔で「好きにしていいよ、鶴田君のやりたいように!」と丸投げされたので、しめたとばかりに「好き放題」やることにした。数週間かけてコンセプトを練り上げた後はカメラマン、ヘアメイク、モデルたちと個別に連絡を取っていく。フランス人アーティストから編集者、ウェブエンジニア、ファッションデザイナーまで、実にバラバラなモデル陣。撮影の前日になって、平井さんから「やっぱり鶴田君が(モデルとしても)出てくれないと、全体が締まらない」と連絡が来たので、あきらめて僕自身も出演を決めた。結果的に合計10名の「非・職業モデル」が撮影に臨むこととなった。
「飲食店の中に背景紙を垂らして不自然な境界線を作り、そのコントラストの中で多様なキャストが自由にクロスオーバーする姿を撮影する」という僕のコンセプトに合わせ、平井さんがレコードバーのオーナー・ツネさんを紹介してくれた。当日の一週間前、ロケハンと事前の打合せを兼ねて平井さんと一緒にツネさんのお店へお邪魔した結果、カウンター席で朝5時まで芋焼酎を飲み続けることになった。熊本県民の酒席は、長く深い。後編へ続く。
2023.10.01