column『アンド・アイ・ラブ・ハーの場合』

column『アンド・アイ・ラブ・ハーの場合』

2024年、春の終わり。高円寺の古着屋「ROKUMEICAN」に複数の店主たちを集めてマーケットを開催することになった。きっかけになったのは、電動自転車でリアカーを引きながら国際フォーラムで開催されている大江戸骨董市に毎月出店している「nichi」の店主・吉田君の存在だった。彼の活動を知ったときから、僕の頭の中でねじが回り始めた。「リアカー、なんてロマンチックなんだろう」と。

column『DEAD KENNEDYS CLOTHING IMAGE LOOK 2023 の場合』

column『DEAD KENNEDYS CLOTHING IMAGE LOOK 2023 の場合』

  ほとんど一年近くを費やして、ようやく僕の手元にDEAD KENNEDYS CLOTHINGの製品が届くことになった2023年11月末。商品自体は12月のポップアップでお客様にお披露目するとして、まずはそれらが僕の手元にあるうちにイメージルックの制作をすませておきたいと思った。いざ、キャスティングについて考えを巡らせてみると、色んなモデル候補が頭の中で暴れ出す。あんな人こんな人に着せてみたい、それは作り手のエゴだ。ただ、実際にこれらの商品を販売するときには「この洋服を着たい、と心から思う人にこそ着てほしい」というのが本音だろう。キャスティングの前に、コンセプト。自分にそう言い聞かせ……

column『AYARIさんの場合』

column『AYARIさんの場合』

AYARIさんとは青山一丁目のカフェで待ち合わせた。非職業モデルの人々を中心に撮影してきたNEJIの作品撮り=STUDYとしてはモデル事務所所属のプロに仕事を依頼するのはこの時が初めてだったので、僕も少し緊張していた。カフェに付いた瞬間、(あたりを見回すまでもなく)店内奥にすらりとしたオーラを見つけた。彼女の席の横に立ち、「お待たせしました。はじめまして、鶴田です」と挨拶をすると、AYARIさんも直ぐに立ち上がり笑顔で自己紹介を返してくれた。僕と同じくらいはありそうな長身だが、頭身バランスが全く違う。身長176㎝、股下86㎝らしい。   彼女のことを知ったのは前職時代の後輩がスタイリ……

column『バンさんの場合』

column『バンさんの場合』

バンさんとは2年ほど前にBEAMSの店頭で初めて会った。MANHOLEの顧客だったバンさんが転職のためのスーツを必要としているということで、MANHOLE店主の河上が僕を紹介してくれたのだ。バンさんからのリクエストは「着回しやすく、ベーシックなトータルコーディネート2セット」ということだった。当時BEAMSで売られているスーツの中で最もオーソドックスなモデルのグレー無地とネイビーストライプを事前に手配して、当日の来店を待った。   そして当日。物腰が柔らかく、控えめな声量、丁寧な言葉遣い。マッシュルームカットでメガネ姿のバンさんに「はじめまして、鶴田です」とあいさつを済ませると、さっ……

column『キシさんの場合』

column『キシさんの場合』

キシさんはBEAMS時代の同僚。厳密にいうと、僕よりも数年あとに中途入社してきた3つ年上の後輩なので、お互いになんとなく敬語使いのまま出会ってから10数年が経っている。キシさんはBEAMSのスタッフになる前、議員秘書をやっていたという異色の経歴の持ち主。学生時代はラガーマンだったらしく、体つきもがっちりしている。そのうえ、スキンヘッドで大髭。これで普段は物静かなのだから、キャラとしては特濃だと思う。   彼はBEAMSのなかでもスーツ売り場の担当だったので、僕とキシさんは同じフロアで働いたことがない。原宿のBEAMS Fにキシさんが所属していたころ、僕は隣の店にいた。会えば挨拶を交わ……

column『ヨウメイさんの場合』

column『ヨウメイさんの場合』

ひょろりとした長身、短髪にメガネ姿。物静かな風貌の奥底には、確かに何かが潜んでいる。ヨウメイさんの第一印象はそんな感じだった。ヨウメイさんの奥様は僕の前職BEAMS時代の先輩で、現在は深川で雑貨店を営んでいる素敵な女性だ。奥様を介して、僕はヨウメイさんに出会った。錦糸町のタイ料理屋で賑やかなメンバーと一緒に食事したり、夫婦そろってBEAMSにスーツを買いに来てくれたこともあった。   数年前のある時、ヨウメイさんから「今度一緒に飲みませんか?」と連絡が来た。快諾した僕は池袋にある赤提灯の店で酒席を設けた。二人きりだった。ヨウメイさんは旅先からそのまま池袋に立ち寄られたようで、お土産に……

column『Vaseシーズンルックの場合(前編)』

column『Vaseシーズンルックの場合(前編)』

中目黒にあるセレクトショップ・Vaseのシーズンルックを制作することになった。当初はオーナーの平井さんに「鶴田君、モデルで出演してよ」と誘われていたのだが、僕はモデル稼業ではない。「せっかくなら作る方をやらせてくださいよ」とお願いしたところ、スタイリングとディレクションを任せてくれた。平井さんは同郷・熊本の先輩。10年以上前に共通の知人を介して知り合った。優しいのか義理堅いのか面倒見が良いのか超テキトーなのか分からないけれど、バラックのようなセレクトショップを中目黒で16年も続けているなんて、やっぱりちょっと変わった人だ。とりあえず僕にはいつも良くしてくれる。   僕がモデルに誘われ……